vol.9 最西端の島が育んだ伝統長寿野菜ー長命草ー

 沖縄本島から南西に約509㎞、石垣島からは西に約127㎞に位置する日本最西端の島、与那国島。面積はわずか28.88km2の、白い砂浜と険しい岸壁に縁どられた美しい島です。晴れた日には西方の水平線に台湾が見えます。
 この島の特産品として島の人々に大切に育まれているのが長命草(和名:ボタンボウフウ 沖縄名:サクナ)(※1)です。与那国島では伝統的な郷土料理の素材として利用されるほか、麺類や菓子、そしてサプリメントとしても利用されるようになっています。また、長命草を利用した蒸留酒やもろみ酢まで誕生しています。  長命草は、過酷な環境の下で生育します。潮風や波しぶきと南国の直射日光にさらされ、年中強い海風に耐えています。珊瑚礁石灰岩の大地にしっかりと根を張り、肉厚で鮮やかな緑色の葉を広げます。このたくましさ、生命力にあやかるため、与那国島では小さなこどもの健康祈願に供えられるなど、神事においても欠かせないものとなっているそうです。
 このコラムの初回「Vol.1なぜ沖縄は健康素材王国なのか?」で述べたように、亜熱帯性気候と島嶼地域という環境で進化した沖縄産スーパーフードの典型的な例が、まさに与那国島の長命草だといえます。

  • 写真提供:金秀バイオ株式会社

  • 写真提供:金秀バイオ株式会社

 濃く鮮やかに彩られた沖縄の植物は、ポリフェノールなどの抗酸化物質を蓄えています(「Vol.8 日陰に逃げ込めない植物の戦略−沖縄の抗酸化野菜—」)。与那国島をロケ地とするドラマ「Dr.コトー診療所」の診察室に長命草のチラシが貼られているのを、筆者はテレビ画面からチラリと見たことがありますが、そのチラシには大きく「活性酸素」の文字が書かれていました。長命草は活性酸素を消去する高い抗酸化力を持つ植物として、長年多くの研究者に注目されてきました。与那国島産の長命草にはビタミンやミネラルに加え、ルチンやクロロゲン酸などのポリフェノールが豊富に含まれています。沖縄の伝統野菜の機能性に関する研究を行っている沖縄県工業技術センターの報告書によると、数ある沖縄産健康野菜の中で、ポリフェノールの含有量は長命草(サクナ)がダントツの高さでした(※2)。上の写真にみられるように、決して肥沃ではない珊瑚礁石灰岩の岩場に青々と葉を広げている長命草の姿をみると、群を抜いた抗酸化物質の多さも納得できるような気がします。このような自然環境から健康に良い植物を見つけ出し、私たちの時代にまで守り伝えぬいてくださった先人の方々に、感謝の念と敬意を抱かずにはいられません。

※1 商品名としての「長命草」は与那国町商工会の登録商標です。
※2 前田剛希「沖縄伝統野菜の低密度リポタンパク質(LDL)の酸化抑制機能」沖縄県工業技術センター研究報告書 第8号 2006年

(一社) 沖縄県健康産業協議会 専門コーディネーター 照屋 隆司(日本臨床栄養協会認定 NR・サプリメントアドバイザー/農学修士)