強い陽ざしが降り注ぐやんばるの森で、真っ赤な実をつけるアセロラ。日本では唯一沖縄県だけで、ビニールハウスを使わない露地栽培が行われています。最も盛んなのは沖縄県北部の本部町。そして南部の糸満市や八重山地方の石垣市でも盛んです。
沖縄でアセロラが栽培されるようになったのは、一組のご夫婦の熱意によります。並里康文さんと並里哲子さん。アセロラは、1958年に農業振興の候補作物として当時の琉球政府がハワイから取り寄せた果樹。しかし、その普及はなかなか進まず放置されていたところ、ある日並里さんの目に留まりました。琉球大学で農学を学んだ本部町出身の並里さんは、アセロラを町の基幹産業にしたいという熱い思いで栽培方法を研究し、沖縄の気候に適した栽培技術を確立。その後大変なご苦労で農家への普及活動を行ったそうです。その思いは見事に実現し、本部町はアセロラの拠点産地として沖縄県から認定されるまでになりました。
写真提供(左・右)株式会社アセローラフレッシュ
日本食品標準成分表2020年版(八訂)によると、アセロラのビタミンC含有量は1700㎎/100g。レモン(全果)のビタミンCが100㎎/100gですから、その17倍になります。まさにビタミンCの王様です。ビタミンCは抗酸化ビタミンの一種で、健康の維持に欠かせない栄養素です。体内では合成されないので、食事から摂取しなければなりません。
ビタミンCは真皮の主成分であるコラーゲンの合成に必要とされます。コラーゲンは真皮の他、筋肉や血管組織、骨、軟骨の構造を正常に保つのに必要な成分です。
このような働きのあるビタミンCは、国の制度である“栄養機能食品”の栄養素として規格基準が設けられており、一日当たり30㎎~1000㎎のビタミンCを摂取できるように作られた加工食品には、一定のルールのもと「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに、抗酸化作用を持つ栄養素です。」と表示することが認められています。
このような栄養素をたっぷり含むアセロラですが、その果実は収穫後の劣化が早いため、生食用の食品としてはなかなか流通させにくいという面があります。そのため収穫後はその産地で鮮度が良いうちにピューレに加工され冷凍保存されます。栽培から加工、冷凍保存が速やかに行われる環境が整って初めて、私たちの食卓への提供が実現するのです。
また、ビタミンCは熱に弱く水にもよく溶けるので、調理の過程で減少してしまうデリケートな栄養素でもありますが、アセロラの中に含まれるビタミンCは比較的熱に強いという研究報告もあります。さらに先に述べたように、収穫後速やかに加工・保存されることで栄養素の含有量を保っているとも言えます。
(一社) 沖縄県健康産業協議会 専門コーディネーター 照屋 隆司(日本臨床栄養協会認定 NR・サプリメントアドバイザー/農学修士)